庭コラム

庭と器

季節を楽しむ、自然とつながるひとときを。
庭と器と私の時間

1月の器 華やぎの酒器で、新年を寿ぐ(ことほぐ)。

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庭やテラスで使いたい器をシーズンごとの場面に重ねて提案するこのシリーズ。
ライフスタイルショップ『THE COVER NIPPON』のクリエイティブ ディレクター・松坂香里さんのナビゲートでお届けします。

香り高いお酒を味わいたい、上品な平盃。

住まいを整えて年神さまをお迎えし、縁起のよい食べ物とお酒で一年の始まりを祝うーー。1月は年が改まる清々しさとともに、お正月の行事によって、日本の伝統文化の良さを最も身近に感じられる時ではないでしょうか。
そんな特別な時節にちなみ今月は、日本の伝統工芸の作り手による酒器の数々をご紹介。手仕事の粋がちりばめられた盃やぐい呑みは、おめでたい文様やモチーフをほどこしたものも多く、新年を寿ぐ(ことほぐ)場にぴったりです。
上質な酒器を用意したら、日本酒もちょっといいものを。庭のテラスできりりと冷やしておきましょう。気温の低いテラスは、お節などの料理を一時的に置いておく場にも最適。大人数の集まりの準備に重宝します。テラスを上手に利用しながら、部屋の中は暖かく、賑やかに。冬の酒宴をゆったりと楽しみましょう。

今回ご紹介するのは、漆器や磁器など素材もさまざまな、4つの産地の酒器。まずは長崎県・三川内焼(みかわちやき)の平戸嘉久正窯の盃です。「三川内焼は白く滑らかな肌に、澄んだ青い色で描かれる染付が特徴。まるで一枚の絵のような、繊細で優美な絵付けで知られる産地です。その中でもこちらの窯は、伝統のなかに遊び心を取り入れた絵柄が魅力。今回の盃にもどこかに隠し絵が潜んでおり、それを探しながらお酒をいただくのも一興です」
約400年の歴史があり、朝廷や将軍家に献上される高級感のある焼き物作りに専念してきた窯らしく、「盃を傾けた時も美しく見えるように、盃の裏側にも丁寧に絵柄が描き込まれています。薄くて口当たりが良く、平たい形も上品。大吟醸など香りのいいお酒をいただくのに向いています。また、平盃は酒器だけでなく、料理の器にしても。先付などを少しずつ盛るのにちょうどよく、これだけで華やかな印象になります」

三川内焼 平戸嘉久正窯(ひらどかくしょうがま)の盃。和食器でよく使われる、花鳥風月や縁起のよいモチーフを文様に。上段/左から、 菊尽くし、海と人魚、桜と富士山 下段/左から、菊花、雲と飛行機、牡丹と蝶 各20,000円(税抜)

職人の手による、粋な隠し絵。こちらの盃には、桜の中に富士山が紛れ込ませてある。

裏や高台の中にも美しい絵柄が。呑む人だけでなく、お酒を酌み交わす相手も楽しませる盃。

平盃は小鉢として使うのもおすすめ。塗り盆に並べ、お節を少しずつ盛って、上品なオードブルに。

華やかな漆器で、盃の中の世界を愉しむ。

続いてご紹介するのは、どちらも石川県で作られている2種の漆器。そのうちのひとつの産地である山中漆器は、「木地師の技術の高さで知られるところです。今回選んだうるしアートはりやの盃も、木地が薄く均等で、やさしい口当たり。山中漆器らしい、軽く上品な器です」
そしてひときわ目を引くのが、内側に精巧にほどこされた蒔絵。猫やねずみ、虎が、まるで盃の中のお酒を呑もうとするかのように描かれていて、何とも言えずユーモラスです。
「モチーフとなっているのは若冲などの浮世絵に描かれた動物たち。こうした“写し絵”は器の世界ではよく使われる手法です。版画の一部を新たな構図に落とし込み、とりわけ難しいとされる内側に描いてみせる技法は、職人の腕の見せどころ。お酒を口にしながら盃の中の世界も楽しんで欲しいという心意気の表れです」
 もうひとつの輪島塗の中島忠平漆器店のぐい呑みも、内側に北斎の「富嶽三十六景」を元にした、それぞれに異なる富士山の写し絵が。
「湾曲した面に描かれていながら、正面から見ると歪みのない一枚絵になっている。まさに熟練の技です。またこちらのぐい呑みは、何層に塗りを重ねる輪島塗の特徴である、ぽってりと温かみのある触感も魅力。濃厚な日本酒をおいしくいただける器だと思います」

今年の干支、「子」が描かれた盃。お酒をなめようとしているような、ねずみの表情が愛らしい。

山中漆器 うるしアートはりや 蒔絵盃。手前から時計回りに、龍、子(ねずみ)、猫、鶏、虎。各30,000円(税抜)

おめでたい富士山の絵柄の盃は、ポチ袋とともにお盆に並べて、ちょっとしたお正月飾りに。ポチ袋を他のものにかえれば、おもてなしや季節のしつらえにも。

輪島塗 中島忠平漆器店(なかしまちゅうべえしっきてん) ぐい呑み。上段/左から、凱風快青、尾州不ニ見原、甲州石班沢 下段/左から、 神奈川沖波裏、山下白雨。各55,000円(税抜)

きりっと冷やして使いたい、ガラスの盃。

最後にご紹介するのは、東京・小林硝子工芸所の江戸切子の酒器。シンプルでシャープなカットが特徴です。
「一見何気ないように思えますが、中の景色がとても美しい。手に持ったときの触感もやさしく、技術の高さがさりげなく伝わってきます。江戸切子は重量感と美しいきらめきが人気の秘密。日本酒を色、味わいともにダイレクトに感じられるところも魅力です。庭のテラスでお酒とともに冷やしてから使うと、冷酒がいっそうおいしく感じられ、おすすめです」
 新春を華やかに演出してくれるさまざまな酒器を紹介した、今回の「庭と器」。人をお招きする機会も多く、また庭のテラスを冷蔵庫代わりに使えるこの季節、各地の日本酒を揃えて飲み比べてみるのもいいかもしれません。
「器は、その土地の食文化を反映するものでもあります。例えば淡麗辛口な日本酒が有名な土地なら、それに合う薄く平たい酒盃が多く作られていたりする。そんな、土地のお酒と酒器の相性も意識しながら、ぜひ楽しんでみてください」

庭の雪の中にお酒と切子の酒盃を冷やして、お客様をお迎えする準備。酒盃のデザインは、細かい格子状が菊の花に見えることからその名がある「菊繋ぎ紋」。菊花は不老長寿の象徴であり、菊は「喜久」と同じ音であることから、縁起の良い花とされています。江戸切子 小林硝子工芸所 菊繋矢来酒盃 赤26,000円(税抜)、瑠璃25,000円(税抜)

写真/田口昭充 撮影協力/里山十帖 文/新田草子

Profile

松坂 香里 | Kaori Matsuzaka
Creative Director

Made in Japanセレクトショップの先駆けである『THE COVER NIPPON』をディレクション。デザイナー・バイヤーの両視点を活かし、産地のブランディングや商品開発、店舗や展示会のコーディネート・PRなど幅広い領域で活動。日本のモノづくりを未来に繋げるために、つくり手とつかい手を繋いでいる。

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