庭コラム
季節を楽しむ、自然とつながるひとときを。
庭と器と私の時間
庭やテラスで使いたい器をシーズンごとの場面に重ねて提案するこのシリーズ。
ライフスタイルショップ『THE COVER NIPPON』のクリエイティブ ディレクター・松坂香里さんのナビゲートでお届けします。
日に日に空気が澄み、木枯らしが吹き始める11月。立冬を迎える月でもあり、とくに日暮れてからの寒さが厳しくなるこの時期は、体が温まるスープや煮込み料理が恋しくなるもの。旬の食材も、生姜や鮭など体を温めてくれて鍋料理にも活躍する食材が多く登場する季節です。気持ちのいい庭のテラスで、体が芯から温まる料理を−−。そんなシーンにぴったりの土鍋とスープ皿をご紹介します。鮮やかな色みに、きりっとモダンな形が印象的です。
「小石原焼の産地は、福岡県の中東部、朝倉郡東峰村に位置する小石原地区です。九州でありながら標高が高く、1〜2月には雪も降るような土地。そんな環境の中、温かな料理に合う器もたくさん作られているのです」
小石原焼の大きな特徴は、ろくろで回しながら器の表面に工具の刃先をあて、規則的に化粧土を削ぐことでほどこされる文様、「飛び鉋(とびかんな)」。微妙な力加減が要求される、高度な技です。
「小石原焼には現在、50軒ほどの窯が集まっています。いずれも家族でひとつひとつの工程を手作業で行い、ギャラリーを併設して、日々の生活のなかで陶器を作っているところばかり。若い陶芸家も多く、伝統技術を守りながら個性を追求しようという動きも盛んです」
マルワ窯も、そんな試みに取り組む窯のひとつ。窯主である太田富隆さんが手がける数々の器のなかから、松坂さんが選んだのは、モダンなエッセンスにあふれる土鍋とスープ皿。洋食器のようなフォルムと伝統柄が響き合って、どこかエキゾチックなイメージが漂います。
「とくに土鍋は小石原では珍しく、こちらは土や焼き方を研究して完成させたもの。鮮やかな赤い釉薬もマルワ窯を象徴するカラーで、独特の存在感があります」
ポトフをたっぷりと仕込んで鍋ごとテラスへ運び、みんなで熱々を分け合う。そんな温かなひとときに似合いそうな土鍋とスープ皿です。
もうひとつのおすすめが、3サイズが揃う逆三角形のスープ皿。
「こちらも、ブルーや赤の鮮やかな釉薬が美しい器です。口縁(縁の部分)から高台にかけてすぼまっていくような独特のフォルムも、目を引きます」
珍しい形と色だけれど、「スープなどの汁物はもちろん、中央にパスタやサラダを少量、など、さまざまな料理が映える形です。小さな鉢ならブイヤベースやポトフなど、具とスープをたっぷり楽しむ料理のとりわけ皿にするのもいいし、大鉢はオブジェとして飾り、見せる器として楽しむのも素敵です」
また、造形や色だけでなく、機能面が優秀なことも大切なポイント。
「モダンな形ですが、高台が広く平らに作られているので、量を盛っても安定します。両手で持ちやすく、スタッキングもできる。小石原焼は重いというイメージを持つ方もいらっしゃいますが、マルワ窯の器は厚みも工夫するなど、軽やかで使いやすい仕上がり。スタイリッシュだけれど器としての使い勝手の良さは逃さないという考えが、徹底しています」
見た目に美しく、使いやすさもきちんと考えられた、マルワ窯の器。そこには、三代目窯主である富隆さんのたゆまぬ努力があったのでした。
‘91年にマルワ窯を継いだ富隆さんは、伝統技術を徹底的に学ぶかたわら、終業後の時間を利用して自身の作品作りも模索。そのひとつを大阪民芸館展に出展したところ、それがアメリカ人陶芸家、リック・アーバン氏の目に止まります。そこから両者の交流が始まり、アーバン氏の作陶を半年間身近で見る機会に恵まれた富隆さんは、薄く軽く焼く独自の技術などを吸収。さらにその後、イギリスに渡り、バーナード・リーチの孫弟子のもとでも作陶を学びます。
「こうした、若いときからアメリカやイギリスの作陶に触れた経験が、富隆さんの独自の世界観を支えているのだと思います。また、お料理好きの奥様の存在も大きい。実際に使ってみた人たちとやり取りをするなかで得た意見や、ご自身が気付いたことを、富隆さんにフィードバックしていく。そうしたすべての要素を生かしながら、料理を実際に盛った姿をイメージしながら作られているのが、マルワ窯の器です。モダンだけれど温かみがあり、独特の存在感がある。伝統の技術と海外の作陶エッセンス、そこに生活の中の声も重ね合わせることで生まれる器は、どれも無二の魅力に満ちています」
写真/田口昭充 文/新田草子
★記事で紹介した器は、上記の店舗でも実際にご購入・ご覧いただけます。
Made in Japanセレクトショップの先駆けである『THE COVER NIPPON』をディレクション。デザイナー・バイヤーの両視点を活かし、産地のブランディングや商品開発、店舗や展示会のコーディネート・PRなど幅広い領域で活動。日本のモノづくりを未来に繋げるために、つくり手とつかい手を繋いでいる。
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